ノーブルホームカップ第26回関東学童秋季大会。1回戦の第4試合は、双方ともノーエラーで1点を争う好勝負が展開された末、逆転サヨナラで決着した。敗軍には多くの涙があったが、そのプレーぶりやベンチワークは、未成熟な時期の模範とも言えるものだった。そのクローズアップを、写真ダイジェストとともにお届けする。
※記録は編集部、学年未表記は5年生
(取材&文=大久保克哉)
■1回戦/第4試合
6回二死満塁、四番が逆転サヨナラ打
◇11月23日 ◇茨城・水戸
玉村ジュニアBBC(群馬)
010000=1
000002x=2
旗の台クラブ(東京)
【玉】山本大-小湊
【旗】豊田、栁澤-岡野
二塁打/柳、米田、大島(旗)
【評】編成は好対照なチームが、ともに無失策の好ゲームを展開した。旗の台のスタメンはオール5年生。先発した左本格派の豊田一稀は、5回まで毎回の計7奪三振と力投する。しかし、先制したのはスタメン6人が下級生で、うち2人は3年生という玉村だった。2回表、野口杏斗主将と小湊煌月(4年)の連打から無死二、三塁として、井上楽惟がスクイズに成功。旗の台は3回裏、米田然の二塁打から一死三塁として、高市凌輔が逆方向へゴロを転がすも、二塁手・野口虹斗(3年)の本塁好返球で同点ならず。以降は静かに進んで迎えた6回裏、旗の台打線がついに目覚めた。玉村の右腕・山本大芽は、遅球を巧みに使って5回まで被安打2。しかし最終回、旗の台が八番・米田から泉春輝、高市まで3連打で無死満塁に。二塁手の野口虹が2度目の本塁好返球など、玉村は勝利までアウト1つとするも、旗の台の四番・大島健士郎が左中間へサヨナラ打を放って幕が下りた。
両先発が好投。旗の台の豊田(上)は90㎞台後半の速球で押し、玉村の山本大(下)は70㎞台の遅球を巧みに投げ分けた
1回裏、旗の台は二番・柳咲太朗(上)の左越え二塁打と、国崎瑛人のバント(下)で二死三塁とするも、無得点
2回表、野口杏主将(上)と4年生・小湊(下)の連打から玉村が無死二、三塁とする
2回表無死二、三塁から玉村は井上がスクイズを決めて先制(上)。続くスクイズは、旗の台バッテリーがウエストから三走をアウトに(下)
旗の台は3回裏、米田の左翼線二塁打(上)と泉のバントで一死三塁とする
玉村は3回裏、一死三塁のピンチからの二ゴロで、三走を本塁憤死で1点を守る
6回裏、1点を追う旗の台は米田(上)と泉(下)の連打と、高市のバント安打で無死満塁に
無死満塁で一打サヨナラ負けのピンチに、玉村は邪飛と二ゴロ(本塁返球)で二死とする(上)。だが旗の台の四番・大島が打った瞬間にそれと分かる長打を左中間へ(下)
―Pickup TEAM―
下級生6人も堂々のノーミスを招いた、指揮官の必然
たまむら
玉村ジュニアベースボールクラブ
[群馬県代表]
ミスをするから叱られるというよりは、叱られるからミスが出る――。都県の王者による関東大会といえども、主体はまだ5年生。記録に残らないものも含めて、多くのミスが生まれた中で、大人の感情的な言動もまた少なからず…。
「大人の当然」を疑い変換
群馬県の王者は明らかに様相が違った。元気ハツラツでバックアップにも動ける4年生の捕手・小湊煌月(=下写真)を筆頭に、どの選手もどの場面でも守るのが楽しそう。いや、大舞台でプレーすること、そのものがうれしくてたまらない。そんな雰囲気が試合前からうかがえた。
相手チームと対面しての挨拶をする直前。一塁ベンチ前に並んだ選手たちには、高揚しながらも自然な笑顔が見られた(=下写真)。髙木謙監督はその際、選手たちにこういう話をしたのだという。
「向こう(相手チーム)だって、こっちを群馬県のチャンピオンとして緊張して見ている。相手をすごいなと思って見ているのは、どっちも同じなんだよ」
そして始まった試合のイニング間には、指揮官から短くも具体的な指示がされていた。「もう1点いくぞ、狙いは速い球だけ!」「意識するな、今のままでいいよ!」…。ピンチの場面ではタイムを取ってマウンドに内野陣を集め、11歳以下の目線よりも低いところから声を発していた(=下写真)。
「われわれ大人が当たり前のように使っている言葉って、子どもにはぜんぜん当たり前ではなくて、分からないことが結構ありますので。試合中の子どもは特に、切羽詰まった状態のことも多いので、シンプルにわかりやすい言葉で伝えるようにしています」(髙木監督)
小さなエース右腕の山本大芽が、スローボールを生かす頭脳的な投球で打たせていく。そしてバックは、どこまでも堅く守り抜いた。結果、ノーエラーで6回二死まで試合をリードした。
「予選を接戦で勝ち上がってきたチームなんですけど、よく守ってくれましたね。まぁ、ピンチになっても自信を持って守れるというか、とにかく『守備でも攻めていけ!』という話はよくしていますので、今日はそういうプレーが再三見れたかなと思います」(髙木監督)
「学童」を外から見つめ直し
仮にミスが出たにしても、アプローチは不変なのだろう。1回戦での堅守と並ぶ驚きは、スタメンのうち6人が4年生以下の下級生であったことだ。
ゴロ捕球からの本塁返球で、2度も決定的なアウトを奪った二塁手の野口虹斗(=上写真)が3年生。室岡京と松本咲斗(=下写真)の三遊間は4年生コンビだ。同じく4年生の捕手・小湊を含め、いずれも身体は大きくないが、プレーを見た限りでは5年生にしか思えない。
登録は18人で、最上級生の5年生が4人しかいないのはたまたまだという。
「6年生も合わせると選手は40人規模で、ここ数年は低学年と高学年に分けて、それぞれヘッドコーチを立てて練習しています」
こう語る髙木監督が、高学年と低学年を兼務する。指揮官は都合7年目で、息子の3兄弟の末っ子が卒団したタイミングで、チームを意図して離れたという。
「そのまま監督を続けたい気持ちもあったんですけど、学童野球を1回離れて、いろんな野球を見て勉強したいというのがありまして」
約2年間は、中学野球や6年生対象の教育リーグなどで手伝いをしながら学びを深め、学童野球を外から見つめ直した。また今年は、次男・壮磨がプレーする健大高崎高が春夏連続で甲子園に出場。春のセンバツVメンバーには入れなかった息子も、夏には甲子園の土を踏んでいる。
「健大高崎の壮大な野球、見ていても気持ちがいい野球には大いに刺激を受けました。学童野球でもそういうところを一番に目指しています。思い切り打たせてあげたい気持ちも根底にありますけど、足を使うとか細かい戦術も教えてあげたい。それを知っているだけでも中学、高校で糧になりますし、9人いたらその個性にも合わせた役割を与えるようにしています」(同監督)
場面に応じて個々がやるべきことと、持つべきマインドが明確。だからこそ、選手たちは学年も関係なく、落ち着いて前向きにプレーできていたのだろう。
投手も投球後は野手。エースの山本大はバント処理など守備も適切だった
1回戦は2回表のワンチャンスで、スクイズを決めて先制した。続くスクイズは外され、以降の出塁は死球による1人だけで足技を見せることはできなかったが、虎の子の1点を全員でしぶとく守った。
最終回にエースがつかまり、逆転サヨナラで敗れると、選手たちは涙。しかし、指揮官の表情からは満足と手応えしかうかがえなかった。
「息子たちはもうチームにいませんし、今は私自身が子どもたちに楽しませてもらっているというか。東京の強豪チームを相手に、ホントによくここまでやりました。褒めてあげたいと思います」(髙木監督)
理想を具現しながら、結果も出していく。この難しい両立を、若いチームで成していることも特筆に値する。創設から10年の新興軍は、やがて時代をリードしていくのかもしれない。